『みいちゃんと山田さん』ネタバレ感想・考察|なぜみいちゃんは守られなかったのか

漫画感想

※本記事は漫画『みいちゃんと山田さん』の重大なネタバレを含みます。

『みいちゃんと山田さん』は、亜月ねね先生による漫画作品で、知的障害や発達障害を抱えた女性・みいちゃんが、殺されるまでの12か月間に社会から追い込まれ、搾取されていく衝撃の物語です。
2024年9月8日より講談社の漫画アプリ「マガジンポケット」で連載が開始され、電子書籍ストアやAmazonでも閲覧可能です。

『みいちゃんと山田さん』はどんな作品か

作品概要

物語は、みいちゃんが人生の最終局面となる12か月間をどのように過ごすかを描きます。事件の顛末だけでなく、彼女がどのように社会から孤立していくのかが詳細に描かれています。

描かれるテーマ

知的障害や発達障害を抱えた女性が、支援がないまま社会に放り出され、搾取されていく現実。物語は読者にその構造的問題を問いかけます。

みいちゃんの生い立ちと最初の分岐点

近親相姦という出自と家庭環境

みいちゃんは宮城県で、母親と祖母に育てられました。
父親はたまに帰ってくる存在でしたが、実際には父と母は兄妹関係にあり、
みいちゃんは近親相姦によって生まれた子どもでした。

祖母は世間体を気にして沈黙を選び、母親はその異常性に気づくことすらありません。
幼少期から発達が遅く、言葉も少ないみいちゃんを、
母親は「支援が必要な存在」としてではなく、
不満の対象として見ていました。

小学3年生・須崎先生の提案が持っていた意味

小学3年生の時、担任となった須崎先生は、
みいちゃんを「問題のある子」ではなく、
「支援が必要な子」として見ていました。

須崎先生は、特別支援学級への移動を母親に提案します。
それは排除ではなく、守るための選択でした。

しかし母親と祖母は、障害を認めることや世間体を理由にこれを拒否。
さらに母親は担任の悪口をみいちゃんに吹き込み、
みいちゃんは学校を信じられなくなり、不登校になってしまいます。

ここは、みいちゃんの人生における最初で最大の分岐点でした。

中学進学時に失われた、もう一つの分岐点

引き継がれていた「支援の必要性」

みいちゃんが中学校へ進学する際、
小学校の担任だった須崎先生と、
進学先の中学校の教師たちによる引き継ぎの話し合いが行われていました。

そこで共有されたのは、
学習面だけでなく対人関係や判断力の面においても、
みいちゃんには継続的な配慮と支援が必要であるという認識でした。

しかし制度上、
どれだけ学校側が必要性を感じていても、
保護者の同意がなければ特別支援学級には進めない
という現実があります。

「普通学級」にこだわった母親の選択

みいちゃんの母親は、
中学校でも普通学級に在籍することを強く望みました。

それは、みいちゃん本人の理解度や安全を最優先した判断というより、
「障害を認めたくない」
「特別扱いされる存在にしたくない」
という思いが色濃く反映された選択でした。

こうしてみいちゃんは、
十分な支援がないまま、
より複雑で残酷な人間関係の中へ放り込まれることになります。

誤った知識と悪意によって歪められた人間関係

中学時代、みいちゃんには好意を寄せる男子クラスメートがいました。
しかし同時に、その男子を想う別の女子生徒も存在していました。

その女子生徒と友人は
みいちゃんを「邪魔な存在」とみなし、
善意を装った言葉で、誤った認識を植え付けます。

「相手に応えれば、喜んでもらえる」

その言葉を疑うことができなかったみいちゃんは、
人との距離感や関係性を大きく誤って学んでしまいます。

その行動は周囲から誤解と拒絶を招き、
みいちゃんは急速に孤立していきました。
かつて近くにいた友人たちも、次第に離れていきます。

守られないまま孤立した結果

孤立したみいちゃんは、
同じ学校内でさらに傷つく経験を重ねることになります。

本人の理解力や判断力の弱さを顧みられることはなく、
周囲の一方的な決めつけによって、
心身に深い傷を負う出来事が起きてしまいました。

決定的に刷り込まれてしまった誤解

この一連の出来事によって、
みいちゃんの中には、ある誤解が強く残ります。

「相手に合わせれば、受け入れてもらえる」

この認識は修正されることなく、
その後のみいちゃんの人生に大きな影響を与えていきます。

中学時代に起きたこの出来事こそが、
後にさまざまな人間関係の中で
自分を守れなくなってしまう、
決定的なきっかけとなりました。

このとき形成された価値観が、
後の人間関係や働き方にまで影を落としていくことになります。

DV男からの救出と山田さんとの共同生活

一時的に訪れた「安全な時間」

成長したみいちゃんは、キャバクラで働きながらDV男に支配され、
金と身体を搾取されていきます。

その状況からみいちゃんを救い出したのが、山田さんでした。
山田さんは自分のマンションで一緒に暮らし、
生活リズムやお金の使い方、社会のルールを一つずつ教えていきます。

この時間は、みいちゃんの人生の中で数少ない
「誰にも殴られず、人として扱われた時間」だったと言えるでしょう。

善意だけでは救えない限界

しかし山田さんは、専門家でも支援者でもありません。
自分自身もまた、母親からの支配に苦しんでいました。

救えた部分と、救いきれなかった部分。
その両方が同時に存在していたことが、
後の展開をより残酷なものにしていきます。

キャバクラ店長による斡旋と搾取の構造

優しい顔をした加害者

みいちゃんがキャバクラからデリヘルへ流れていった理由は、
本人の意思だけではありませんでした。

キャバクラの店長が裏でデリヘルに斡旋し、
マージンを取っていたことが判明します。

表向きは優しく、面倒見のいい大人。
しかし実際には、みいちゃんが断れないこと、
危険を理解できないことを見抜いた上での搾取でした。

山田さんがキャバクラを辞めようと決意した理由

この事実を知り、山田さんはキャバクラを辞めようと決意します。
自分が立っていた場所が、
搾取の構造の一部だったことに気づいてしまったからです。

この作品が描く日本社会の現実

知的障害・発達障害のある女性と性産業

本作が描いているのは、
知的障害や発達障害のある女性が、
声を上げられないことを利用され、
性産業に沈められていく現実です。

鎖も暴力もなく、
「本人が選んだように見える形」で進んでいく搾取。
それこそが、この構造の最も恐ろしい点です。

途上国の話ではなく、日本で起きていること

これは遠い国の話ではありません。
日本という社会の中で、制度からこぼれ落ちた人たちが、
今も静かに食い物にされています。

『みいちゃんと山田さん』は、
その事実を読者に突きつける作品です。

まとめ|なぜみいちゃんは守られなかったのか

みいちゃんの悲劇は、突然起きたものではありません。
救われる可能性は、何度も存在していました。

それでも選ばれなかった結果が、
この結末につながっています。

弱い人を守るはずの社会は、
どこで機能しなくなったのか。
この作品は、その問いを静かに投げかけています。

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