誰かのために作った料理に、何気ない一言で心が冷えた経験はないだろうか。
ドラマ「それじゃあ、あんたが作ってみろよ。」は、料理をきっかけに、恋愛の中で生まれる無自覚な言葉や思いやりのズレを描いた静かな物語だ。
一度別れを経験し、成長した2人が最後に選んだ道は──。
プロポーズから始まる違和感
物語は、勝男が鮎美にプロポーズし、断られるところから始まる。
学生時代からモテてきた勝男は、自分が振られた理由が分からない。そこで彼は、鮎美の得意料理だった筑前煮を、自分で作ってみることにする。
料理をして初めて気づく「当たり前」
市販の出汁や麺つゆを「手抜き」だと思っていた勝男。
実際に出汁を取り、料理をしてみて、下ごしらえの多さや段取りの大変さ、毎日作り続けることの重みを知っていく。
これまで何気なく口にしてきた「おかずが茶色ばっかり」「味噌汁の具とおかずが被っている」といった言葉が、どれほど相手の気持ちを傷つけていたのかに気づき、少しずつ反省していく姿が印象的だった。
合わせ続けていた鮎美が失っていたもの
一方で鮎美は、勝男に嫌われないようにと、知らず知らずのうちに自分を抑え、合わせ続けていた。
勝男と付き合っていた頃の鮎美は、自分が何を好きなのか、何を大切にしたいのかさえ、分からなくなっていたように思う。
別れを経て、新しい友人や恋人との出会いと別れを経験する中で、鮎美は少しずつ自分自身を取り戻していく。
再び始まった関係と、再び生まれるすれ違い
一度離れたことで、お互いの良さを再確認した二人は、再び付き合い始める。
しかし、鮎美が自分の店を持つ夢に向かって動き出す中で、勝男の「良かれと思って」の助言や手助けは、次第におせっかいとして受け取られてしまう。
支えたい気持ちと、自分の力でやりたい気持ち。
その小さなズレが、二人の間に静かに影を落としていく。
最終回が教えてくれた「好き」の形
最終回で二人は一緒にご飯を食べ、これまでの時間を振り返る。
そして勝男は、鮎美のためを思い、自分から別れを選ぶ。
勝男は、鮎美が好きだからこそ、そばにいるのではなく、手放す決断をした。
以前の勝男なら、きっとできなかった選択だろう。一度別れを経験し、相手の立場を想像できるようになったからこそ選べた道だった。
成長した2人が選んだ別々の未来
鮎美もまた、ただ相手に合わせるだけの女性ではなく、自分の人生を自分で切り開こうとする強さを手に入れていた。
二人は恋人としては離れたが、人としては確実に成長していたことが、静かに伝わってくるラストだった。
結ばれない終わり方だからこそ、この物語は誠実で、リアリティがある。
「好き」とは、相手を縛ることではなく、相手の未来を思って身を引くことも含まれるのだと、最終回は教えてくれた。
とてもいいドラマだった。
でも、ベタな展開も希望していたから、将来的には結ばれてほしい。
頑張れ勝男!

